職場の転倒予防|労働災害で最も多い型と、実行できる対策
この記事の結論
転倒は、労働災害の事故の型のなかで最も多い型です。厚生労働省の公表では、令和6年の休業4日以上の死傷者135,718人のうち、転倒が36,378人。全体の約4分の1を占めています。対策は「気をつける」では進みません。環境を直すことと、本人が自分の状態に気づくこと。この2つを同時に動かしてください。
数字で見る職場の転倒
厚生労働省が公表した令和6年の労働災害発生状況では、次のようになっています。
| 順位 | 事故の型 | 死傷者数(休業4日以上) |
|---|---|---|
| 1位 | 転倒 | 36,378人(前年比 320人・0.9%増) |
| 2位 | 動作の反動・無理な動作 | 22,218人(前年比 165人・0.7%増) |
| 3位 | 墜落・転落 | 20,699人(前年比 59人・0.3%減) |
| ― | 全体 | 135,718人(前年比 347人増、4年連続で増加) |
出典:厚生労働省「令和6年の労働災害発生状況」。数値は同資料の公表値です。最新の状況は厚生労働省の公表をご確認ください。
転倒だけで全体の約26.8%を占めます。高所からの墜落や機械へのはさまれといった、いかにも危険に見える災害よりも多い。しかも件数は増え続けています。
年齢との関係も見逃せません。同資料では60歳代以上の死傷年千人率は4.00とされており、高年齢の従業員への対応が課題として挙げられています。人手不足で就業年齢が上がっている職場では、この比重はさらに大きくなります。
なぜ転倒対策は進まないのか
数字を見れば最優先の課題のはずですが、実際には後回しになりがちです。理由ははっきりしています。
| 言われること | 実際には |
|---|---|
| 「気をつければ防げる」 | 気をつけていても転ぶ。だから事故になっている |
| 「うちは危険な作業がない」 | 転倒は事務所・厨房・店舗でも起きる |
| 「高齢者の問題」 | 50代・60代の従業員が多い職場ほど自社の問題 |
| 「大きなケガにならない」 | 骨折すれば休業は数か月に及ぶ |
| 「自分は大丈夫」 | 転ばずに済んでいる人ほどそう思っている |
最後の行が、対策の本当の壁です。本人が「自分には関係ない」と思っている限り、何を配っても読まれません。
対策1:環境を直す
本人の意識に頼らず、確実に効くのはこちらです。まず現場を見てください。
| 場所 | 見るところ | 直し方 |
|---|---|---|
| 床 | 濡れ、油、たわみ、めくれたマット | 滑り止め、こまめな拭き取り、マットの固定 |
| 段差 | 数センチの段差ほど危ない | スロープ、色を変えて視認させる |
| 配線 | 通路を横切るコード | 床用モール、配線経路の変更 |
| 照明 | 暗い通路、階段、倉庫 | 照度を上げる。人感センサー |
| 通路 | 置きっぱなしの荷物、台車 | 置き場を決める。線を引く |
| 階段 | 手すりの有無、段鼻の視認性 | 手すりの設置、段鼻にテープ |
| 靴 | すり減った靴底、サイズの合わない靴 | 作業靴の基準を決める。交換の目安を示す |
とくに「数センチの段差」と「靴」は見落とされます。大きな段差は誰でも注意しますが、2〜3センチの段差は視界に入りません。靴も、本人は履き慣れているぶん、靴底がすり減っていることに気づきません。
ヒヤリ・ハットを集める
「転びそうになった」は、災害になっていないので報告されません。意識して集めないと見えないまま残ります。
- 報告の様式を短くする(場所と状況の2行で足りる)
- 報告した人を責めない。責めた瞬間、報告は止まる
- 集まった場所を地図に落とす。同じ場所に集中します
対策2:本人が自分の状態に気づく
環境を直しても、バランス能力そのものが落ちていれば転びます。そしてバランス能力の低下には自覚がありません。
ここで効くのが、状態を数値にして本人に返すことです。
なぜ数値が効くのか
| 呼びかけ | 受け取られ方 |
|---|---|
| 段差に気をつけてください | 「自分は大丈夫」 |
| 手すりを使ってください | 「まだそんな歳じゃない」 |
| 運動しましょう | 「そのうちやる」 |
| 立位年齢が実年齢より12歳上です | 「え、そうなの?」 |
「自分は大丈夫」という思い込みを揺さぶれるのが、数値の役割です。安全衛生の掲示物を増やすより、一度測ってもらうほうが早いことがあります。
骨とバランスは組み合わせで意味が出る
骨だけ測ると「骨を強くしましょう」で終わります。バランスを足すと話が変わります。骨が弱くても転ばなければ折れません。逆にバランスが落ちていても骨が強ければ被害は小さく済みます。この2つが揃うと「転ばない体をつくる」という具体的な目標になります。
恐怖をあおらない
転倒の話は、扱い方を間違えるとすぐ恐怖に転びます。
| × | ○ |
|---|---|
| あなたは転びやすい状態です | 今回はこういう結果でした |
| このままだと危険です | ここは伸びしろがありますね |
| 骨がもろくなっています | 気になるようでしたら医療機関でも詳しく調べられます |
| 無理をしないでください | 3か月後にまた測ってみましょう |
「危険です」と伝えると、動くのをやめる人が出ます。動かなくなれば筋力もバランスも落ち、かえって転びやすくなります。狙いは活動を増やすことであって、怖がらせることではありません。
ここで扱う測定機器は、将来の転倒を予測したり、骨粗しょう症を診断したりするものではありません。結果は運動や環境を見直すきっかけとして使ってください。体調に不安がある場合は医療機関にご相談ください。
年間の進め方の例
| 時期 | やること |
|---|---|
| 1〜2月目 | 現場を歩いて、床・段差・配線・照明・通路を洗い出す |
| 1〜2月目 | ヒヤリ・ハットの報告様式を作り、集め始める |
| 3月目 | 測定会を実施(立位バランス+骨健康度)。レンタルで可 |
| 4月目〜 | 優先度の高い環境の改善に着手する |
| 6月目 | ヒヤリ・ハットが集中している場所を地図で確認 |
| 6月目 | 2回目の測定(立位バランスは3か月以上あける) |
| 12月目 | 転倒災害・ヒヤリ・ハットの件数を前年と比べる |
測定はレンタルで十分です。立位年齢測定器 StA²BLE が1日55,000円、骨健康度測定器 骨ウエーブが1日45,000円、超音波骨密度測定装置 CM-200 が1日60,000円です(2026年9月時点)。年に2回なら購入する必要はありません。
よくある質問
Q1. 職場の労働災害で転倒はどのくらい多いのですか?
A. 厚生労働省が公表した令和6年の労働災害発生状況では、休業4日以上の死傷者135,718人のうち転倒が36,378人で、事故の型別で最も多くなっています。全体の約26.8%にあたり、2位の「動作の反動・無理な動作」22,218人、3位の「墜落・転落」20,699人を上回ります。
Q2. 事務所や店舗でも対策は必要ですか?
A. 必要です。転倒は高所作業や機械のある現場に限らず、事務所、厨房、店舗、倉庫でも起きています。濡れた床、数センチの段差、通路を横切る配線、暗い階段が主な原因です。
Q3. 「気をつける」だけでは足りませんか?
A. 足りません。気をつけていても転ぶから事故になっています。環境を直すこと(床・段差・配線・照明・靴)と、本人が自分のバランス能力に気づくこと。この2つを同時に進めてください。
Q4. なぜ測定が対策になるのですか?
A. バランス能力の低下には自覚がないためです。「自分は大丈夫」と思っている人ほど対策が進みません。立位年齢として実年齢と比べられる数値が出ると、その思い込みが揺らぎ、行動を変えるきっかけになります。
Q5. 骨健康度も一緒に測る意味はありますか?
A. あります。立位バランスは「転びやすさ」、骨健康度は「折れやすさ」を示します。骨が弱くても転ばなければ折れず、バランスが落ちていても骨が強ければ被害は小さく済みます。2つ揃うと「転ばない体をつくる」という具体的な目標になります。
Q6. 結果が悪かった人にはどう伝えればよいですか?
A. 「危険です」「転びやすい状態です」とは伝えないでください。動くのをやめる人が出て、かえって筋力とバランスが落ちます。「今回はこういう結果でした」「ここは伸びしろがあります」「3か月後にまた測りましょう」という言葉に置き換えてください。
Q7. 測定会のレンタルや相談はできますか?
A. できます。立位年齢測定器 StA²BLE が1日55,000円、骨健康度測定器 骨ウエーブが1日45,000円からのレンタルに対応しています。従業員数と会場をお知らせいただければ、台数と当日の進め方までご提案します。お問い合わせフォームからご連絡ください。