職場の転倒災害対策|労働災害で最も多い「転倒」をどう減らすか
転倒は、労働災害の事故の型別で最も多い
厚生労働省が公表した令和7年の労働災害発生状況によると、休業4日以上の死傷者数は135,333人でした。前年より385人(0.3%)減っています。
ところが、事故の型別で見ると様子が違います。
| 事故の型 | 死傷者数(令和7年) | 前年比 |
|---|---|---|
| 転倒 | 37,195人 | +817人(+2.2%) |
| 動作の反動・無理な動作(腰痛等) | 22,166人 | ― |
| 墜落・転落 | 20,864人 | ― |
転倒は事故の型別で最多であり、労働災害全体が減っているなかで増え続けています。2位の「動作の反動・無理な動作」より1万5千人以上多く、突出しています。
この数字が意味するのは単純です。設備の安全対策や機械のリスクアセスメントが効果を上げてきた一方で、転倒だけは従来のやり方で減っていないということです。
なぜ転倒は減らないのか
理由1:危険に見えない場所で起きる
厚生労働省のエイジフレンドリーガイドラインは、「転倒災害は危険に感じられない場所で発生していることも多い」と指摘しています。プレス機や高所のように誰が見ても危ない場所ではなく、廊下、階段、更衣室、駐車場といった日常の動線で起きます。
危険に見えないので、リスクアセスメントの対象から外れます。対象から外れるので、対策が打たれません。
理由2:原因が「人」の側にある
床の段差や照明を直しても、転倒はゼロになりません。バランス能力や身体機能の低下という、設備では解決できない要因が絡むからです。
そしてここが難しいところで、身体機能の低下は本人にも自覚がありません。「自分はまだ大丈夫」と思っている人が転びます。
理由3:対策が「注意喚起」で止まる
多くの職場で、転倒対策は朝礼での声かけ、ポスター、ヒヤリハット報告にとどまっています。これらが無意味ということではありませんが、効果を測れないという共通の弱点があります。
測れないので、改善したかどうかも分かりません。分からないので、続ける根拠も作れません。
高年齢労働者が増えるほど、この問題は重くなる
厚生労働省は令和2年3月16日、「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン、基安発0316第1号)を公表しました。事業者に求めているのは、大きく次の5つです。
- 安全衛生管理体制の確立
- 職場環境の改善
- 高年齢労働者の健康や体力の状況の把握
- 高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応
- 安全衛生教育
注目したいのは3番目です。ガイドラインは、健康診断だけでなく「体力チェック」の実施を求めています。具体的なツールとして、厚生労働省の「転倒等リスク評価セルフチェック票」やフレイルチェックなどが挙げられています。
つまり国の方針としては、転倒対策は「環境を直す」だけでなく「人の状態を把握する」ところまで含むという整理になっています。
なお、このガイドラインの内容は、2026年4月1日から改正労働安全衛生法にもとづく「高年齢者の労働災害防止のための指針」として位置づけ直され、高年齢者の労働災害防止は事業者の努力義務になりました。詳しくは高年齢者の労働災害防止のための指針とはで解説しています。
転倒対策を仕組みにする4つのステップ
ステップ1:測る(現状を数値にする)
対策の前に、まず今どうなっているかを数字にします。ここが抜けると、あとの工程がすべて感覚になります。
測り方には自己申告のチェック票、体力テスト、機器による測定があり、それぞれ長所と短所があります。3つの測り方の違いは別記事で整理しています。
ステップ2:見せる(本人に気づいてもらう)
測定結果を本人に返します。ここが転倒対策の分かれ目です。
「あなたは転倒リスクが高い」と言われても、人は行動を変えません。ところが「実年齢より上の数値が出た」という形で見せると、受け止め方が変わります。StA²BLEが測定結果を「立位年齢®」という年齢の指標で表示するのは、この理由によります。
ステップ3:対策を打つ(環境と人の両面)
測定結果をもとに、次の2方向で手を打ちます。
| 環境側 | 人側 | |
|---|---|---|
| 内容 | 段差の解消、手すり、照明、滑りにくい床材・靴 | バランス訓練、ストレッチ、運動習慣 |
| 効果が出るまで | すぐ | 数か月 |
| 費用 | まとまった投資 | 時間と継続 |
| 誰がやるか | 会社 | 本人(会社は場と動機を用意する) |
どちらか一方では足りません。環境を直しても身体機能は戻らず、訓練だけでは床の段差は消えないからです。
ステップ4:測り直す(効果を確認する)
一定期間のあと、同じ方法でもう一度測ります。ここまでやって初めて、対策が効いたかどうかが分かります。
この「測る→見せる→対策→測り直す」の1周が回ると、転倒対策は報告できる施策になります。安全衛生委員会に出す資料も、経営に説明する材料も、ここから作れます。
測定を安全衛生の年間計画に組み込む
単発で終わらせないために、既存の行事に紐づけるのが現実的です。
| 時期 | 行事 | やること |
|---|---|---|
| 4〜5月 | 年度初め・健康診断 | 初回測定。基準値を取る |
| 7月 | 全国安全週間 | 測定会を実施。結果を職場に掲示 |
| 10月 | 労働衛生週間 | 対策の中間確認 |
| 1〜3月 | 年度末 | 再測定。年間の変化を委員会へ報告 |
年2回の測定で十分です。毎月やろうとすると続きません。測定会の当日の組み立て方もあわせてご覧ください。
費用をどう見るか
転倒災害が1件起きたときに発生するのは、休業補償だけではありません。代替人員の手配、労災の手続き、再発防止の報告、そして場合によっては送検や企業名の公表があります。
測定機器の導入費用は、この1件と比べる性質のものです。加えて、高年齢労働者の労働災害防止に取り組む事業者向けにはエイジフレンドリー補助金という制度もあります。あわせて検討してください。
また、常設せずにレンタルや計測会という形で導入する方法もあります。まず1回測ってみてから判断する、という進め方も可能です。
よくある質問
Q1. 労働災害で最も多い事故の型は何ですか?
A. 転倒です。厚生労働省の令和7年労働災害発生状況によると、休業4日以上の死傷者数135,333人のうち転倒が37,195人で最多でした。全体が前年比0.3%減となるなかで、転倒は2.2%増えています。
Q2. なぜ転倒災害は減らないのですか?
A. 主に3つの理由があります。危険に見えない日常の動線で起きるためリスクアセスメントの対象から外れやすいこと、バランス能力の低下という設備では解決できない要因が絡むこと、対策が注意喚起にとどまり効果を測れないことです。
Q3. エイジフレンドリーガイドラインは転倒対策について何を求めていますか?
A. 令和2年3月16日付の同ガイドラインは、事業者に対し、安全衛生管理体制の確立、職場環境の改善、高年齢労働者の健康や体力の状況の把握、状況に応じた対応、安全衛生教育の5つを求めています。このうち「体力の状況の把握」では、健康診断に加えて体力チェックの実施が挙げられています。
Q4. 環境整備と体力対策はどちらを優先すべきですか?
A. どちらか一方では足りません。環境整備は効果が出るのが早くまとまった投資が必要、体力対策は効果に数か月かかり継続が必要、と性質が異なります。両面で進めるのが基本です。
Q5. 測定はどのくらいの頻度で行えばよいですか?
A. 年2回を目安にしてください。全国安全週間や労働衛生週間など既存の行事に紐づけると続けやすくなります。毎月実施しようとすると運用が続かず、結局やめてしまうことが多いです。
Q6. まず何から始めればよいですか?
A. 現状を数値にするところからです。測っていない状態では、どの対策が必要かも、効果が出たかも判断できません。StA²BLEは購入のほか、レンタルや計測会という形でも導入できますので、まず1回測ってみることから始められます。